勘違いによる鶏病の蔓延 1

 「鶏を出来るだけ良い環境で飼えば、鶏は病気にならない」と信じている方々がいます。光の差さないウインドレス鶏舎内に、身動きも出来ないスペースに押し込められている鶏に比べて、我が家のような平飼い養鶏場の鶏は相対的に良好な環境により、日々受けるストレスも少なく、抗病性は高いのは確かです。鶏の抗病性が高いことと、病気にならないこととは違います。良好な環境で飼育され、栄養たっぷりな餌を食べている元気な鶏でも、ウイルスなどの病原菌が鶏舎に入れば鶏は病気に感染して一定の率で発症します。そして鶏達は保菌鶏になり、鶏舎は長年にわたり鶏病で汚染され、他の鶏や他の養鶏場にウイルスなどの病原菌をまき散らすことになります。(鶏の飼育環境や鶏の体力の違いにより鶏病による被害の差は出ます)
 「鶏を出来るだけ良い環境で飼えば、鶏は病気にならない」このような盲信に近いことを信じるのが消費者や他の産業の人なら笑ってすませられるのですが、「高病性鳥インフルエンザニューカッスル病のウイルスが鶏舎に入っても我が家の鶏は病気にならない」などと裏付けも無く、ちょっと養鶏の勉強した人が聞いたら笑い、怒り、あきれるようなことを本に堂々と書いている養鶏家もいます。困ったことに、このような鶏の生理を無視した「とんでも本」は一部の方々には人気があり、教条主義的に信じて鶏を飼っている人がけっこういます。
 青森のりんご農家木村さんが多くの苦難を乗り越え『奇蹟のりんご』にたどり着き、不可能と言われていたりんごの無農薬栽培を可能にしたその努力が消費者、街の人達に認められ賞賛されています。木村さんの筆舌に尽くしがたい苦難と努力で『奇蹟のりんご』は生まれたと思いますが、『奇蹟のりんご』は農法として確立できずに『奇蹟のりんご』のままのようです。
 一般のりんご農家の努力によって埋められる溝ではないようです。農村、農業に身を置いている私は一人による『奇蹟のりんご』の成功よりは、多くの人達が努力により減農薬でりんご栽培が出来る農法の確立がりんご農家の安全、地域環境の安全、そして多くの消費者の安全、安心に繋がるものと信じています。農業の現場では『奇蹟』より農家を繋ぎ、時代に耐える『農法』が求められていると思います。