招かざる客(8)ワクモ

[招かざる客](8)ワクモ
 「むしむし、ジメジメ」、この高温多湿の季節は、夜な夜な鶏の血を吸うワクモの発生が養鶏家を悩ませます。産卵率の低下、餌効率の悪化、卵の品質の低下、死亡鶏(さすがに我が家ではありませんが)等々、ワクモによる被害が出ます。
 ワクモは家禽や鳥類の外部寄生虫です。ワクモは自然界にいる野鳥から鶏舎に持ち込まれ夜間に休息している鶏から吸血し、日中は鶏糞の裂け目や鶏舎の止まり木などの木々の隙間に潜伏し、交尾や産卵を行い子孫を増やします。ワクモにとって最適な環境下のこの季節ではその生育環は約7日で完結して、ワクモの生息数は爆発的に増えます。血を吸われる鶏や作業中に作業着から身体に侵入してワクモに刺されることもある養鶏家にとっては最悪、最低の季節です。
 ワクモは寒さにも強く(−20度まで耐えるようです)、吸血しなくても約10ヶ月ほどは生存します。一度鶏舎にワクモが入り込んだら「完全に駆除」することは至難になります。鶏をオールイン、オールアウトして(鶏舎や農場に同一年齢の鶏を一斉に運び込み、産卵させて、一斉に廃鶏にする仕組み。鶏の機械化。鶏は同一年齢のため管理がしやすく、廃鶏後は鶏がいなくなった鶏舎を一斉に消毒することにより病気の蔓延を防ぐ効果がある。効率的経営のためにアメリカで開発された方法で、大規模養鶏などインテグレートされた養鶏場で行われている)鶏糞を取り出し、念入りに鶏舎を洗い、ジャブジャブと消毒しますと「ワクモを駆除」できますが、次の鶏の導入後、知らず知らずのまに増えてくるのがこのワクモです。それでワクモ退治のために殺虫剤のお世話になる養鶏場もありますが、鶏の健康や卵の安全性に問題が起きることがあり慎むべきです。
 経営上オールイン、オールアウトもできず、消毒剤や殺虫剤も使わない我が家の鶏舎でのワクモの発生は「夏の風物詩」です。(そんな優雅な話ではないのですが)
 ワクモは「檜の臭いを嫌う」と聞きかじり、檜の葉を山から取ってきて小さく刻み鶏の餌に混ぜましたが、鶏は食べませんでした。ならばワクモのいそうな所に「檜の葉を下げたら」と思い実行しましたがなんの効果もありませんでした。檜の葉をすりつぶしワクモのいそうな所に塗りつける、檜の葉の臭い(ヒノキチノール)にワクモは反応し数日は減りますが、あとは元の木阿弥です。
 蟻が蜘蛛が「ワクモを食べる」と聞き、蟻と蜘蛛を捕まえてきて鶏舎に入れましたが、多勢に無勢、勝負になりませんでした。
「豊かな自然と共に生きる」とは、ワクモと、ダニ、ノミ、アブラムシ、蚊、ハエ、ムカデなどの害虫とも共に生きることのようです。DDTが戦後多くの子供たちの命を救ったように(今もアフリカなどの地域で多くの命を救っています)、殺虫剤は有用です。しかし殺虫剤の大量使用により環境に弊害が出ているのも確かです。赤ちゃんなど抵抗力の弱い人間を害虫から守るために、間接的に殺虫剤を使うことは否定しませんが、直接的に健康に被害がないのに「見た目に気持ち悪い」などと言う理由で殺虫剤をばらまくのは慎むべきだと思います。害虫も食物連鎖の中で生きています。
 ワクモに殺虫剤は使えませんし、使いたくもありません。何か良いアイデアはありませんでしょうか?