勘違いによる鶏病の蔓延 2

 我が家の鶏を食肉に解体してくれる業者のSさんとは20年以上の付き合いです。
Sさんの包丁さばきは職人技で、見ているだけでも勉強になります。鶏の内臓の見分け方、鶏肉の味の違い等を教えていただいています。(「うまい鶏肉」と一言で括られることが多いですが、鶏種の違いにより肉のこく、甘み、香りが違うようです。要するに好みにより「うまい鶏肉」は微妙に変わるようです)
 養鶏場は規模拡大化され、それに比例するように鶏の解体業者も規模拡大化され機械で鶏肉を解体するのが当たり前の時代になっています。Sさんの食肉解体場は規模が小さく、ほぼ全て手作業で行っています。このような規模の小さな食肉解体場の多くは廃業して、私のような零細養鶏農家の鶏を解体で受け入れてくれるのは近くではSさんの所だけとなっています。多くの食肉処理業者の廃業に伴い、鶏の解体のために県内、県外からもSさんを頼って来る零細養鶏農家は多いようです。
 Sさんの食肉処理場は奥さんと二人で切り盛りしてきました。数年前に奥さんが癌で亡くなり、その後は近くに住んでいる娘さんが手伝っています。
 奥さんが亡くなってからちょっと問題が起き始めています。Sさんは食肉解体職人としては一流なのですが、その他のことにはあまり気が回りません。
 養鶏場から鶏を積んできた車の消毒、鶏病、衛生管理は奥さんが一手に取り仕切っていました。その奥さんが亡くなり、ちょっと鶏病対策に不安があったので「Sさん、養鶏場からどんな病気が持ち込まれるか分からないので、車は消毒した方が良いよ」と何回か話すのですが、「大じょぶだっぺ。家畜保健場の指導で病気の鶏は食肉処理場に持ち込めないことになってるんだ」と取り合いません。
 理屈はSさんの言うとおりかも知れませんが、病気の鶏を処理するために食肉処理業者を利用する養鶏家もいますし、鶏病のイロハも分からない養鶏家もいます。
 「鶏を出来るだけ良い環境で飼えば、鶏は病気にならない」と信じている養鶏家達と「大じょぶだっぺ。家畜保健場の指導で病気の鶏は食肉処理場に持ち込めないことになってるんだ」と信じている食肉処理業者が出会いますと、不幸にも鶏病が蔓延、拡散される可能性が出てきます。
 そして現実にSさんの食肉処理場に鶏をもっていく養鶏農家に数年前から『伝染性気管支炎』や『コクシジューム』が蔓延し始めています。
 『伝染性気管支炎』や『コクシジューム』の流行ならまだ良いですが、高病性鳥インフルエンザニューカッスル病が蔓延しないか心配しています。
薬を使わないで鶏を飼うと言うことは、鶏病に対する基本的な知識と、細心の注意をもって病原菌が自分の養鶏場に入らないようにすることにつきます。お呪いや妄想や希望的観測では鶏の病気は防げません。