鶏の大型化に思わぬ弊害、「木のような」胸肉
ウォール・ストリート・ジャーナル 3月31日(木)10時52分配信

 高まる鶏肉需要を満たすべく鶏の大型化を追求する中で、食品業界は予期しなかった問題に突き当たっている。
 問題は十分に大きな鶏を育てることではない。鶏卵用ではない肉用のブロイラーでは、胸肉だけで数十年前の1羽分より重い鶏が増えている。ただ、こうした胸肉には硬い繊維質が含まれるものが増えており、食品業界は「木のような胸肉」と呼んでいる。人間の健康に害をもたらすものではないが、食感は落ちる。

 伊ボローニャ大学の食品科学者、マッシミリアーノ・ペトラッチ氏は「より硬く弾力があるので、この種の肉を噛むには多くのエネルギーが必要だ」と話す。
 同氏によると、米国やスペイン、英国、ブラジルなどでこうした状況が生じており、世界中で販売される骨なし胸肉の約5〜10%は「ゴムのように硬い」。
 こうした硬い胸肉の原因は分かっていないが、ペトラッチ氏をはじめとする研究者らは、数十年にわたって大型化と成長促進に重点を置いて鶏を飼育してきたことが一因ではないかとみている。
 米オーバーン大学のサシット・F・ビルギーリ名誉教授(家禽科学)は「最終的な体重は、どのくらい速く成長するかほど問題ではない」と話す。同教授は筋肉の異常について5年以上にわたって研究している。

 サンダーソン・ファームズやパーデュー・ファームズ、ウェイン・ファームズといった米鶏肉生産各社にとって、硬い胸肉はここ数年で直面している鶏の筋肉障害の一つだ。一方、消費者からは動物の生活の質向上や抗生物質の使用低減に向けた圧力が高まっている。
 業界アナリストらは硬い胸肉について、大幅な値引きを余儀なくされたり、消費者が小ぶりの鶏の飼育を求めることになれば、結局は生産者の売り上げを阻害しかねないと指摘する。
 米バージニア州リッチモンドのBB&Tキャピタル・マーケッツのアナリスト、ブレット・ハンドリー氏は、今は大型の鶏を販売するほうが利益が上がるが、今後は「利益が縮小する」可能性があると話す。
 同氏は、消費者が「木のような胸肉」は買いたくない以上、より大きな胸肉を生産する価値はあるのかと問いかける。その上で、企業利益への影響はまだ、数値化しようとするほど大きくないと思うと続けた。
 サンダーソン・ファームズのマイク・コクレル最高財務責任者CFO)は、同社は1年ほど前、レストランや消費者の苦情を受けてこの問題に気づいたと話す。同社は現在、食肉加工工場に、骨なし皮なし胸肉について「木のような胸肉」がないかを調べる従業員を置いているが、この問題に対処するコストはごくわずかだという。
 過去50年間に、米国で飼育される鶏の平均体重はほぼ倍増した。一方、鶏の体重を増やす時間は半分に短縮されている。1965年には3.5ポンド(約1.6キロ)の鶏を出荷するのに63日かかった。アグリスタッツと業界団体によると、2015年には飼育期間48日の鶏の平均体重は6.2ポンドだった。今では10ポンド以上の鶏を育てている企業も多い。
 若くなく体重の重い鶏ほど筋肉が硬くなる傾向が強まる。研究者や企業によると、この問題は生きた鶏では発見しにくく、食肉処理されて初めて表面化する。

 研究者たちによると、成長の速めた鶏が生物学的限界にさしかかってるのか、それとも、栄養や飼育方法の問題がこうした状況につながっているかどうかは明らかではない。
 オーバーン大学のビルギーリ氏は「鶏を『A地点』から『B地点』に育てるには複数のやり方があり、われわれは現在、その方法について協議している」と話す。同氏は異なる期間で鶏を飼育することに関する研究を監督している。「これは経済的に重要な問題なので、誰も肉の生産量を諦めたくはないが、こうした問題をコントロールしたいとも考えている」と語った。.
By KELSEY GEE

人間と鶏は違う生き物ですので、人間に置き換えるのは少々無理がありますが、わかりやすくするために鶏の成長を人間に置き換えてみます。育雛期間48日は人間で言いますと4ー5歳かと思います。生き物として未発達の鶏を食肉にしますから、鶏本来の味がしません。体重10ポンドは4.6kg。通常の大人の鶏の体重は2.3kgー2.7kgほどです。4.6kgを人間の体重に置き換えますと80-100kgほどになります。これだけ考えても異常です。自分の体重の重さで立てなくなるブロイラーも多いと言われます。かわいそうな鶏たち。