地鶏

「地鶏」という言葉は、戦前から日本で飼育されていた秋田の比内鶏名古屋コーチンなどの鶏の総称でした。いつの間にか「80日令以上肥育された鶏、地面を歩く鶏」等という意味不明な言葉で括られるようになりました。しかし現在、多くの「地鶏」と呼ばれている肉用鶏は、戦前から日本にいたシャモや名古屋コーチンなどの掛け合わせにより新たに改良(?)された鶏で、「地鶏」という言葉もまんざら嘘とは言えません。
短期間で肥育するブロイラーと対比して、飼い方や肉質に工夫された肉用鶏を「地鶏」と考えて今回は話を進めます。
 殆ど我が家の鶏肉しか食べていない私には「何処の鶏なら美味しい」と言う知識もありませんので、一般的な鶏肉の味について少し考えてみます。
鶏肉は鶏種により若干の違いはありますが、生後4ヶ月齢頃から肉本来の味が出てくると言われます。肉の固さなどの歯触りを大切にする人、肉汁や香りなどを大切に考える人と、肉の味覚にも個人差はあります。私は鶏が初産の卵を産む6ヶ月齢頃の鶏が最高に美味しいと思います。身体全体にうっすらと脂がのり、肉の味はしっかりつき、けして堅くはない、適度の歯ごたえがある月齢です。揚げ物、煮物どちらでも美味しく頂けます。
 「味、香り、歯ごたえも最高」になった鶏肉は、育成経費も最高にかかった肉になります。神戸牛は大げさとしても、和牛肉の価格になると思います。
「地鶏」なら美味しいか?

勿論、鶏種による肉質の違いはありますが(比内鶏やシャモは美味しいです)、鶏に何を食べさせ、どの様な飼い方をしたかが大きく肉質、味に影響します。
 日本の殆どの鶏に使われている『完全配合飼料』を、今まで色んな所で私は「良くない」と言ってきました。飼料会社は出来るだけ安い餌を作るために、合成ビタミンや合成アミノ酸を多用して「健康な鶏でも下痢をする」と揶揄される程品質の悪い餌を『完全配合飼料』と言う名で販売しています。そして多くの養鶏場は飼料会社から多大な借金をして、昔の小作のように飼料会社に「生かさず、殺さず」で管理されているのが現状です。
 そして最悪なのは、動物性蛋白として『完全配合飼料』内に肉骨粉が混ぜられています。肉骨粉の6割は鶏の残渣から作られますので鶏の「共食い」です。肉骨粉内の悪臭脂肪分子が肉や卵(卵黄)の脂肪分子内に入り込み、肉や卵の臭いを悪くしていると言われます。肉や卵の香りでその食べ物の作られ方が分かるとも言われます。
 テレビで、行列の出来る「こだわり親子丼」の店を特集していました。元気で自信に溢れた店主曰く「肉は名古屋コーチン、卵も1週間に1個しか産まない名古屋コーチンの卵。店(うち)は最高な物しか使わないから」とテレビカメラの前でその1週間に1個しか産まない、名古屋コーチンの卵を割って自慢していました。オレンジ色した黄身の卵です、非常に高い確率で『完全配合飼料』で育てられた鶏の卵です。テレビ映像ですから、その親子丼の味や香りは分かりませんでしたが、このような卵を無自覚に使うお店です、失礼ですが鶏肉の方も自ずから味が分かりそうです。た名古屋コーチンは1週間に5個程卵を産む卵肉兼用種です。特筆する程美味しい肉とは思いません。(シャモや比内鶏の方が数段美味しいです)
 鶏飼育農家も6ヶ月齢頃の鶏肉が美味しいのは分かっていながら、経費のことを考え、販売を考えると躊躇します。鶏は3ヶ月齢頃から極端に餌効率が(食べさせる餌の割りには体重が増えなくなる)悪くなります。そして、多くの「地鶏」にはシャモの血が入っていて、雄はそのころから喧噪せい(虐めや、けんか)が酷くなり、体重のばらつきや死亡鶏が増えます。無理な飼い方(少ない面積に大量の鶏を詰め込む)、技術の未熟から病気が多発する時期に入り、育成率の低下や薬の多用に繋がります。このような問題から「分かっているけど」と言いつつ、3ヶ月齢頃に肉にされる「地鶏」も多いようです。
 地鶏も「玉石混淆」の世界です。
私からの提案
「地鶏」と言っても、『完全配合肥料』を使い3ヶ月齢頃に肉になる鶏が多いです。そして値段も牛肉程度で販売されています。ブロイラーはブロイラーとして使い、水炊きや煮込みには産卵の役割が解除された鶏で良いのではないでしょうか。味、香りには申し分ありません、しかし堅さには難点があります。それは包丁の入れ方(切り方)や煮込む時間で柔らかくなります。
私の知識では卵肉兼用種では「ヒペコ」と言う鶏が美味しいと思います。卵は少々小さく、色は桜色で産卵では見劣りしますが、肉は癖のない美味しさです。私も一度このヒペコを飼ってみたいと思うのですが、卵が見劣りして(外見、産卵率ですが)躊躇しています。
 最後に一言、同じ産卵の役割から解除された鶏でも、ケージ飼いの鶏は筋っぽくて普通は食べません。多くはドッグフードか肉骨粉になります。