笛ふけど百姓は踊らず

 農業は、土に触らないお上が「教え導く」と言いますか、農家の手を取り足を取り「農業資金の貸し借り、農作物の生産技術、販売方法、農地の活用、生活改善、嫁姑問題」と営農から家庭問題まで事細かく指導してくれる今時珍しく面倒見の良い業界です。
 そして冬の農閑期は県の農業改良普及所が、市町村が、農協が行う「先進地視察旅行」「作付け勉強会」「・・講演会」などと農家のための勉強会、研修会が多い季節です。
これらの研修会の経費の殆どは「補助金」で賄われ、農家は無料か僅かのお金を出すことで参加、勉強ができます。「簿記に農作物の加工技術、新たな農業技術、農家の生活改善に農業後継者の嫁問題まで」とこれらの研修会を上手く利用しますと農家の生活や経営を改善する大きな手助けになります。そして県や市町村も農家の生活や経営改善が行われることにより、より良い農業経営、活力のある農村が作り維持されることを期待して行っていると思います。
しかし多くの農家は「椅子に座って聞く勉強」は余り馴染みません、もう少しはっきり言いますと「嫌い」です。上司に監視されることもなく、営業ノルマもタイムカードもなく「俺の農作業は俺が気の向いたときにやればよい。自然だけが俺のご主人様」と思う農家は決まった時間に集まり、決められた行動を皆と同じようにするのはことのほか苦手です。厳しい肉体労働に長時間労働、しかし管理されない自由が農業の醍醐味です。
 県や市町村がよかれと思い農家のために開催する「勉強会」は、多くの農家にとっては余り気乗りのする集まりではありません。「町の・・さんに頼まれたから、農協から動員されたから仕方ない出るっぺ」「役場の奴は良いっぺ、彼奴ら仕事で参加するから給料貰えるものな。俺ら農作業を休んでこんな所に参加しても1円にもならんべ」と余り乗り気でないことが多く、農村特有の「義理」のために参加することが多いのが農家の本心です。
 県や市町村の担当者も「農家のためにやってやる」「奴は嫌いだから参加させるな、役場の言うことを聞かないから参加させない」と補助金を自分の身銭と勘違いする方もいます。
 笛ふけど百姓は踊らず、県や市町村の担当者の「実績作り」と農家の「1日の休日」と補助金として国の税金が消えていく農村の冬です。
 勿論、全ての農家が、役人が上記のような考え方をしているのではありません。真面目な農家が多くなった昨今の農村です。お間違えのないように。