農家は貧しいか?(2)

 日本の経済はグローバル化に向かって進んでいるようですが、日本の農村にはまだまだグローバル経済に組み込まれない生活が多く残っています。「生産物の物々交換、仕事の結い、金銭化されにくい地域文化、世代を超えた貸し借り助け合い、里山などの自然からの恩恵、伝統の生活の知恵と技術、、、、」。
 具体的に考えますと、新規就農夫婦が有機農産物の宅配を生計の中心にして、年に夫婦で4ー5千時間働いて、約1−1.5haの畑で野菜を生産し4−50軒ほどに宅配すると考えます。1回の宅配野菜代を2千円と考えますと、1軒で年に約10万円ほどの売り上げになります。昨今の不景気で1回の宅配野菜に2千円の価格を付けられない農家も多いです、また冬期には野菜の生産が少なくなり売り上げ減る農家も多いです。売り上げの6割ほどを粗利と考えますと平均的な手取りは年に180−240万円ほどです。新規就農者がこのような安定した生活にたどり着くには、農作業および野菜栽培の技術取得と、宅配野菜を販売するための営業努力が求められます。就農地域や、その人の能力により違いはありますが、平均で就農してから3−5年ほどの経験が求められると思います。
 4ー5千時間働いて手取りは年に180−240万円ほど、時間給で計算しますと4−6百円ほどです。労働者の最低賃金を下回ります。詳しいデーターは知りませんが私の経験から考えますと、新規就農者や有機農家に限らず平均的農家の時給は3−10百円程かと思います。だから多くの人は農業を辞めて勤めに、パートに出ます。
 やはり農家は貧しいのか?
 年間の収入240万円は月に直しますと20万円です。この20万円は、サラリーマンの月収20万円と少し違います。農家は食べ物を自給できます、衣服にお金がかかりません。拘らなければ車は仕事(農業)と共有できます。外食も小遣いも、紅葉狩りなどの旅行も余り必要としません。都会に比べて家賃も安いです。サラリーマンと比べて収入は少ないですが農村の土地代金や、家の建築にかかるお金も少なく済みます。特別な現金を必要とするとき(子供の学費など)以外は余り貧しさは感じません。
 農家が都会の工業社会が決めた物と貨幣の交換比率で貨幣を求めるとき、農家の生活に無理が現れ、経営リスクが増大します。消費刺激社会に農家の生活が組み込まれたとき、貨幣の少ない農家は貧しさを実感するようです。私を含めて、多くの日本の農家は知らず知らずのうちに「消費は美徳」と消費刺激社会に組み込まれているようです。
 農家は基本的には通勤時間はありません。家周りの草刈り、庭の手入れ、家屋や機械の修理も仕事時間です。隣のおばちゃんとの「情報交換」(お茶のみ)も仕事の一部です。食品加工も農家の生活に組み込まれています。農家の生活と農業労働を分離して考えるのは無理があります。農家にとっては仕事が生活であり、生きることです。このような生活と仕事が分離できなく、収入の少ない農業を嫌い、収益と労働の効率化を求めて企業的農業を目指している農家も多いです。どちらが正しく、良いかは私には分かりません。
 貧しさとは基本的には主観的な感覚だと思います。お金は無限に求められますが、生活に必要な品は案外少なくて済みます。貴方がどの様な豊かさを求めるかが問われます。
 今日の食べる物に困り、子供の学費に困っている農民もいると思いますが、全体的に日本の新規就農者の貧しさは、アジアやアフリカの農民の貧困にはほど遠く「質素、倹約」に近い生活です。自己意識により選択した貧困とでも言えるのでしょうか。
 貴方が求める豊かさが農村や農業にあると信じられるなら、農業で豊かさを感じて生活を送ることができると思います。