烏骨鶏(下)

鶏の中では特異と言われる烏骨鶏ですが、その生態を見ていますと「これが鶏の原型なのかな?」と思われることがあります。(鶏の原型は、中国の雲南省からタイやラオスなどの東南アジアに生息している赤色野鶏が家禽化して、今の鶏になったと言われています。)
烏骨鶏は自分の身体で抱ける15−6個の卵を約1ヶ月かけて産みます。「人間様に卵を貢ぐ、卵と餌を取引する」等という俗なる気持ちは微塵も無さそうです。 「私がいる。故に私の子孫を増やす」それだけです。
 唯我独尊の烏骨鶏です、自分のために必要な卵を産みますと私が怒っても、なだめても、哀願しても、脅かしても「あと1個」とて産むことはありません。
 卵を産んだだけでは母鶏にはなれません。単なる排卵行為です。産んだ卵を大事に暖め雛に孵して初めて鶏は母になります。
 自分の産んだ卵を自分の身体で大事に暖め始めます。母鶏になる準備に入ります。 鶏の孵卵に要する日数は約21日ですが、自然界ではその時々の外気温などに影響され、1週間ほど遅れることがあります。約1ヶ月のこの孵化の期間、鶏は餌も水もあまり取らずに只ひたすら卵を暖めます。鶏は卵に必要な温度、湿度、空気を与えるために、嘴で卵を動かし転がし巣の外と内の卵を入れ替えたりします。
 卵を抱き始めて10日も過ぎますと、卵内の雛の心臓の鼓動で判断するのか、鶏は孵化の進んでいない(多くは無精卵)卵を巣から嘴で出してしまいます。
 孵化する前日には雛は卵殻を「ハシ打ち」し、母鶏に「明日産まれます」と合図を送ります。
 21−22日で孵化の早い雛は産まれ「ピョ、ピョ」と母鶏の羽の下から顔を出し、少しずつ行動半径を広げていきます。母鶏は孵化の遅れている卵を抱きつつ、「ピョ、ピョ」と、自由に外を駆け回る雛の安全を心配をする。心が安まる間のない時間です。1週間もしたら雛に孵らない卵は諦め、雛の育雛に専念します。
 孵化の期間は、端の方でそっと卵を孵化していた鶏も(卵を産んでいる鶏は強く、卵を休んでいる鶏は群れの中では弱い立場にあります。孵卵の初期には他の鶏からちょっかいを出されることもありますが、他の鶏たちも「孵化を理解するのか?」その後は卵を抱いている鶏を虐めることはありません。)雛が孵ると俄然強くなり(母は強です)、雛にちょっかいを出す鶏には果敢に向かっていきます。
 母鶏はその後約2ヶ月雛を育てて(孵化後約1ヶ月頃から、雛は雛のグループで行動する時間が多くなり、母鶏とはだんだん離れていきます)、母鶏は体力も回復して、新たに卵を産み始めます。その4ヶ月サイクルを年に3回ほど生真面目に行っているのが烏骨鶏です。自分のために生きる烏骨鶏、これが鶏の本来の姿のようです。