食糧自給率、夏の夜の夢  (中)

 さて、この国の食糧自給率が低下して誰が困るのでしょうか?私たち農家は日本の農作物が高く売れる方が良いですが(結果的に、この国の食糧自給率は上がります)、少なくとも農家は国の食糧自給率など考えて農業はしていません。
 その証拠にあまり食糧自給率に関係のない花や果物、お茶など小面積でも農家の収入が増える作物を積極的に作ります。国の農業政策も、農家に効率化を求めるために地域単作化を推し進め(技術、共同出荷、収入改善を図るため)、結果的に地域の、農家の自給率を下げてきました。
 農家が真剣に考える食糧自給率は、我が家の家庭内食料自給率です。そしてムラの食糧自給率までです。この国全体の食糧自給率でみますと「40%割れ」かも知れませんが、農業が盛んな北海道や東北地方は軒並み食糧自給率は100%以上です。
 農村には農作物は溢れ、海外の安い農作物と価格競争をさせられ、農作物の販売に悩み、低収入に耐えきれなく、負債を増やし離農しているのが農村の現状です。
では、食糧自給率が1%と言われる東京や、2%の大阪、3%の神奈川などの都市生活者は「食糧自給率40%割る」を真剣に我が身のことと考え、悩み、恐れおののいているのでしょうか?
都市生活者全員ではないでしょうが「明日の不安よりも、今日の快楽」で都会は動いているように私には思えます。今日遊ぶために、今日着飾るためにお金を使い、明日のためには教育費にお金を使いエンゲル係数を下げることが、今日の都会的生活のようです。
国は「食糧自給率 アップ」と言いながら、一方では農家に水田を強制的に休耕、転作させています。採算が合わないために、この近郊の麦秋の景色も殆ど消えてしまいました。水田転作地で作る作物は、人件費の安い中国や広大な農地を有するアメリカやオーストラリアと価格競争させられ、結果的に日本の農家は戦いに破れ離農が進み、農村は疲弊して荒れ地を増やしています。
莫大とも思える農業予算は農協を経由して、農業土木、農業資材、農業機械の会社に吸い取られていきます。本当にこの国は国民の将来を見据えて「食糧自給率 アップ」を考えているか私はどうしても疑ってしまいます。