低卵価の秘密 (下)

 「卵価の上昇に誘われて養鶏羽数が増えて、生産される卵も消費量を超えてしまう。その結果、必然的に卵価が採算割れをする」5年の内3年はこのような年になり、養鶏場は人件費も出ない赤字経営が続きます。資金繰りの困った養鶏場が倒産や廃業して4年目には卵価が持ち直し、4年目、5年目で前3年分の赤字を取り返します。
 これを「エッグ・サイクル」と言い、90年代の初めまでこのようなことが養鶏業界で繰り返されてきました。
 それが今から15年ほど前から「エッグ・サイクル」が殆ど無くなり、卵価は「誰かに操作されているかのように」採算割れの低価格を維持するようになりました。
今から20年ほど前は「規模拡大のメリットが出る30万羽以上の鶏の飼育か、自己管理が行き届き、一部自己販売ができる3万羽以下の飼育養鶏場しか生き残れない」と養鶏業界で言われていました。それが10年ほど前には「50万羽以上か1万羽以下の飼育養鶏場」になり「この頃は借金が多くてつぶせない100万羽以上の企業養鶏場か、飼料会社に借金のない3千羽以下の生業(なりわい)養鶏農家」と言われています。
 養鶏業者は他の養鶏場の倒産を待ち、この我慢比べの後にくるだろう「養鶏場の黄金の日々」を待ちます。しかし卵価は操作され?、養鶏業者が笑顔で過ごせる日はもう来ないようです。
 100万羽以上の鶏を飼育していても、上記に書いたように殆どの養鶏場は赤字経営です。その赤字分を全農や商社、そして飼料会社から借金をして自転車操業をしているのが多くの養鶏場の実態だと思います。全農や商社、そして飼料会社もただではお金を貸してくれません。黙って飼料会社の言い値で飼料を購入して、商社の言い値で指示されたスーパーに卵を卸す、農奴のように従順な養鶏場のみがお金を貸して「生きながらえ」ます。全農や商社、そして飼料会社は養鶏業者の借金分を餌代などに上乗せして、彼らはけして損はしない仕組みを確立しています。養鶏業者の「生かさず、殺さず」の世界が確立され、養鶏業者と言う現代の農奴はそのアリ地獄から抜け出すことができなくなります。 
それが低卵価の秘密のようです。これが養鶏に限らず多くの農作物でアメリカや中国との価格競争などと言われて「手を変え、品を買えて価格操作が」行われているようです。商社の一つ課が日本の農家に過去の平均価格を見せて、「有望農作物や畜産が今後どれだけ儲かるか」と収益が確約されているかのように装い、有望農作物や畜産を農家に斡旋して、資金のない農家は土地などを担保に商社から借金をして資材を購入して事業を始めます。
 最初に始めた農家は2−3年は儲かり、人の良い農家は親類や知人の農家を商社に紹介して「このアリ地獄」に巻き込んでしまいます。
 そのころ同じ商社の別の課は(または子会社)海外の農家を巻き込み、ほぼ同じことを初めて、生産された農作物を日本に輸入します。日本の農家と、海外の農家は商社の手の上で「価格競争」をさせられます。農業資材を売り、手数料で儲ける商社にとってどちらの国の農家が儲け、この戦いに勝つかは関係ないようです。そして多くの農家は多額の借金のために農奴のように働かされるか、農家の命より大切な先祖からの農地を取り上げられてしまいます。
このような不幸は日本だけでなく、我々と競争して、圧倒的に強そうなアメリカの農民も中国の農民も企業に管理され、日本の農民と同じような「不幸」な状態にあるようです。
21世紀の農業は、「毒を食らわば皿まで」と覚悟を決めて農業の規模拡大に走るか、地産地消の思想から農業は生業(なりわい)と考え、農村内で助け合い質素な生活を営むかを問われ、それが今後の地球環境にも大きく影響しそうです。