鶏の秘め事 (中) 

 雌鶏は孵化後4ヶ月を過ぎてきますと鶏冠が少しずつ成長して、綺麗な紅色が目立ち始めます。身体も少し丸みを帯び、妖艶になってきます。
雄鶏も雌鶏に合わせるかのように性成長が進み、鶏冠も体つきも大人びてきます。「クヲッ」、「クッコッー」等とまだ巧く鳴けなかった雄鶏も「コケコッコー」と鳴き始め、自分の強さを誇示し始めます。そして雌鶏のすきを見つけて性的なアタックを始めますがまだまだ未熟者、性交(成功)はしません、鶏の世界も雌鶏の同意が必要です。雌鶏はしつこい雄鶏を避けるかのように止まり木の上で過ごす時間が多いのもこの時期です。雌鶏は交尾に素直に従わない、でも有り余る若いエネルギーの発散はしたい。そんな雄鶏はグループで弱い雄鶏を捕まえ押さえ込み、無理矢理に交尾に持ち込みます。ホモ・セクシャル的強姦とでも呼びますか。しかしこの様な強姦は雌鶏には行われません。
 孵化後5ヶ月令に入る頃には早い雌鶏は卵を産み始めます。卵を産み始める数日前から、雌鶏は地面にしゃがみ込み、雄鶏を身体の上に乗せる体勢を作ります。 私が給餌や集卵で鶏舎に入りますと、雌鶏は私の足音に反応してしゃがみ込み、歩くのもままならないほど多くの雌鶏が、交尾の体勢を作ります。鶏は一度の交尾で4−5日は有精卵が産まれると言われます。
 雄鶏にとって「時は今」です。相手の雄鶏の交尾をじゃまをして、前々から目を付けていた可愛い彼女に自分の力を誇示し、それでだめなら雌鶏を拝み倒す。雄鶏は有りとあらゆる手を使い、多くの雌鶏を自分の物にするために必死に闘います。
 だいたい雄鶏10羽に雌鶏150羽程が一部屋に入っています。それがいくつかのグループに分かれるのですが、平均すると雄鶏1羽に雌鶏15羽程が1グループです。しかし鶏の世界も計算の様には行きません。
 強い雄鶏は付き合えないほど沢山の雌鶏に囲まれ、鶏のハーレム・グループを作り出します。小羽数の雌鶏との家庭的愛情を守り、実直な付き合いを大切にする雄鶏もいます。努力はしたものの、運悪く雌鶏に恵まれないで一生童貞?で過ごす雄鶏もいるようです。
 言葉も金も何の意味も持たない鶏の世界の恋愛は、人間世界以上に残酷かも知れません。