養鶏職人(1)

 私は毎朝、鶏舎に入る前に各部屋の前で鶏の鳴き声に耳を傾けます。鶏は「驚き」「喜び」「困惑」「恐怖」「痛み」などでそれぞれ鳴き方を変えます。鶏は「コケコッコー」(雄の鳴き声)だけではなく、その場に応じて鳴き方を変え自分の意志を伝えています。
 その部屋の「鳴き声」を聞き分け、鶏舎の戸を開けて部屋の中を目と鼻と勘で一瞥します。それぞれの部屋の鶏たちの生活のグループはだいたい安定、固定化していますので、その「いつも」との違いを見分けてその部屋の問題の有無を確認します。
 それから反時計回りでゆっくりと部屋の中を一周して、餌の残量、水の減りぐあい、鶏糞の色や形、病鶏の有無を確認します。時間で言いますとものの2−3分でしょうが、目で見て、耳で鶏の鳴き声や異音を聞き分け、鼻で異臭をかぎ分け、勘と経験を働かせる大切な時間です。少しでも気になることがあれば2−3の鶏を捕まえ、鶏の肉付きを確認して、顔面、羽、恥骨などを細かく調べます。
 緊急の問題が無ければいつものように集卵を始めます。集卵の時は規格外卵と正常卵に分けて集卵します。部屋ごとの規格外卵率(だいたいの勘ですが)の変化により、鶏病判断や餌の栄養価の変更の参考にします。正常卵の重さ、形、色の変化も大切です。卵が大きく重すぎますと「栄養過多」の可能性があります。反対に卵が小さかったり痩せていたり(細い)しますと栄養不足の可能性があります。卵の色は鶏の年齢は勿論のことですが、栄養価や光の量によっても影響されます。
 集卵が終わり、それぞれの部屋の餌の残量を思い出して、産卵率に卵重、卵の形状により鶏に給餌する餌の栄養価を変えます。その時には各部屋の今後の産卵の変化(年齢的に上がるか下がるか、産卵率を維持するかです)と、今後の気温の変化(暖かくなりますと鶏は餌を食わなくなります。「餌を余り食べなくて高産卵率」の時は高タンパク質の餌を与える必要があります。寒さに向かう前には鶏の体力に余裕をつけるようにします)を考えます。当たり前のことですが、1−2週間に1度は鶏の餌の栄養価を変える必要があります。鶏は機械ではありません生き物です、栄養価の定まった「配合飼料」に機械のように鶏を合わせるのではなく、鶏の欲求(体調)に合わせて餌を変えるべきです。
 私たち人間が「夏バテ予防にウナギ」と言うように、鶏にも夏には夏の餌があり、冬には冬用の餌があります。若い鶏と、老鶏では必要な栄養価は違います。
 この辺のことは数字や言葉で置き換え難く、経験と勘がものを言う世界です。そう、私は自分のことを「養鶏職人」と思っています。