卵のクレーム

 卵を毎日販売していますと1−2ヶ月に1回ほどお客さんから「卵のクレーム」が有ります。クレーム ( 1 商取引で、売買契約条項に違約があった場合、違約した相手に対して損害賠償請求を行うこと。2 苦情。異議。)と言うと大げさで「卵に対する質問、疑問、事実の報告、戸惑い」と言った方が適切かも知れません。
 その様なお客さんからの電話の中で一番多いのが「卵に混ざる血」についてです。
 箸でつまんで取り出され程の「可愛い血」なら笑って過ごせます、しかし希にですが「血の中に黄身が浮かんでいる」と言っても大げさでないほど大量の血が混ざった卵が、お客さんに配達されることがあるようです。私も「血の中に黄身が浮かんでいる」卵に何度か遭遇したことがあり、現実にその様な卵が希にですが産み出されることを理解しています。
 その様な「血の中に黄身が浮かんでいる」卵を見たら不快で、気持ち悪くなり「何でこのような卵を売るのか」と一言電話をしたくなるのは人の情で、私が消費者の立場なら同じように電話をすると思います。このような電話がお客さんから有りますと先ずは謝罪をして、その後考えられる原因についてお話しして理解していただいています。
 「卵内の血」の原因として考えられるのは、鶏が産卵中にストレスにより(野鳥、獣、騒音などの何らかの原因で驚く)、卵巣あるいは輸卵管中で毛細血管の一部破壊が起こり、そこから血液が混入したもの考えられます。希ですが、卵巣に異常がありその出血も考えられます。血判が小さな物まで含めますと約2%程卵に血が混ざるとも言われています。
 白色の卵は透光検卵で血の混ざった卵の除去が出来るようになりましたが(完全には無理のようです)、褐色の卵(我が家の卵)は透光検卵しても内部がよく見えないために、血の混ざった卵は除去出来ないのが現実です。言い訳になりますが卵は工業製品とは違い生命の塊です、100%人間がコントロール出来ないのが現状です、ご理解下さい。
 次に多いクレームは「市販の卵のオレンジ色と違いお宅の卵の黄身は黄色いが(またはクリーム色)食べても大丈夫ですか?」と言う電話です。「卵の「黄身」の色は読んで字の如く「黄色」です」と言いますと角が立ちますので、やんわりと黄身の色についてお話しさせていただきます。卵の黄身の色は食べる餌や野菜などに含まれるカロチンの量により黄身の色が薄くなったり濃くなります。大規模養鶏場では野菜を鶏に給餌する事は不可能に近く、配合飼料は飼料価格を抑えるためにトウモロコシなどのカロチンを多く含んでいる餌を減らして、不足する栄養素を合成ビタミンや合成アミノ酸で補っています。
 また、卵焼きなどの加工メーカーからは「白身と混ぜた卵焼きでも、全体が美味しそうな黄色になるように黄身の色を濃くして欲しい」との要望があり、パプリカ色素を餌へ添加が始まったようです。初期の頃は、黄身の色が黄色からオレンジ色に変わり不安に思った消費者に「オレンジ色の黄身は今まで以上に栄養価が高く美味しい卵だ」と宣伝して、今ではオレンジ色の黄身が「当たり前」になり、我が家の卵のような「黄色」の黄身は消費者に不安を与えるようです。
 参考までに、黄身の色によって卵の栄養価や味は変わりません。食べさせる餌により卵の味や栄養価が変わり、その餌に含まれるカロチンの量や添加色素により卵の黄身の色が「黄色かオレンジ」になります。
 「卵のクレーム」と言っても「卵に混ざる血」や「黄身の色」についてが殆どで、それも1−2ヶ月に1回ほどです。激怒して電話をかけてくる方もなく、恵まれた環境で商売していると日々お客さんには感謝しています。