鶏に太陽の光を(上)

 「試しに」と、我が家の卵を親鶏に抱かせて雛を孵すことがあります。昔から子孫を残すために卵を孵すのが鶏の本能であり仕事でしたが、最近の鶏は人間の都合により「卵を抱き難く」(産卵を休まない)なり、いざ鶏に卵を抱かせるとなると少々の経験と注意が必要です。
 他の鶏に虐められず、静かで薄暗く安心して卵を抱ける場所を用意し、経験と勘で卵を抱きたがっている鶏を見つけ出します。親鶏が一度に抱ける卵は12−15個です。「そーっ」と鶏を卵の上に乗せてあとは鶏に任せます。移動され、環境が変わり少し戸惑っていた鶏も、本能に従い卵を抱き始めます。2−3日が経過して、抱卵が安定してきますともう安心です。まんべんなく温度が卵に行き渡るように鶏は自分の身体を前後に動かし、嘴で卵を転がし、大事に大事に卵を温め続けます。
 季節により違いますが、鶏が卵を抱き始めてから21−24日ほどの日数で約8割ほどの雛が孵ります。孵化の遅れている卵を温め(中から雛の嘴による「ハシ打ち」がされ、親鶏はその微かな合図をキャッチします)、早く出てきた雛は「ピーピー」と駆け回り、さあ、親鶏は大変です。
 3−4日もすると雛は出そろい、孵化されない(ハチ打ちされない)卵は巣から親鶏の足ではじき出され、鶏親子の新しい生活が本格的に始まります。雛は親鶏と共に餌や水を覚え、寒いときは母鶏の羽根の下で過ごします。母鶏の羽の下から顔をちょこっと出している雛の姿は本当に可愛いです。
 孵化後1週間も過ぎますと、雛は母鶏の目が届かないほど遠くまで遊びに出かけて母鶏を心配させるようになります。雛が他の鶏に虐められたり、危険に遭い「ピー、ピー」と鳴き声を立てますと、母鶏は自分の危険を顧みず雛を助けに行きます。強い雄鶏にまで、自分の雛を守るために猛然と戦いを挑む母鶏は偉大です。鶏は卵を産んでも母にはなれず、卵を抱いて孵化して初めて強い母になるようです。
 孵化後2週間も過ぎますと、母鶏に抱かれる時間も殆ど無くなり、母鶏について生きていくためのいろいろな知恵を覚え始めます。その後は少しずつ母鶏と子供のグループは距離を取り始め、孵化後2ヶ月も過ぎますと親子の関係は完全になくなるようです。その頃になりますと母鶏は新たに卵を産み始めて、次の孵化の準備に入ります。雛達はグループで育ち、孵化後5ヶ月もしますと卵を産み始め親鶏になります。
 このような育雛が雛にとって一番良いのでしょうが、養鶏「業」となりますと現実的ではありません。