特発性顔面神経麻痺(6)

 7月9日(水)、4時起床。
 時間を間違えて起きる。暗い中で落語を聞いて朝を待つ。病院での時間は身体に纏い付くようにゆったりと流れ、時間のありがたさと、うっとうしさが共に感じられる。
 私の前のベットは、私が入院してから3人目の人に変わっている。今は月曜日に入院された65歳前後の膵臓癌の方だ。膵臓癌のためインシュリンが分泌されにくくなり、インシュリン注射の打ち方を習うために入院されたようだ。「医者には余命は半年と言われてるんだ、病院で身体を虐められるのはこりごりだから残りの日々は家で過ごしたい」と言われる。見た目は元気そうなのだが。
 私の隣は昨日入院してきた八十歳代後半の老人だ。自分の足では動けず、移動の時は車椅子を利用しているが痴呆はなく、食は細いようだがまずまず元気のようだ。老人ホームの空きを待っているようだ。医者や看護師の質問には答えなかったり、蚊の鳴くような声で話すが、老婆(この老人の妻)にはけっこう大きな声で話している。面白い。
病院は医者をトップにその下に看護師、検査技師、理学療法士、事務職員と並び、その下に看護助士、清掃員と連なり、一つのピラミッドを形成している。看護師から見て医者は「**先生」と呼ばれ、検査技師は「技師の**さん」、理学療法士、事務職員も名前にさん付けで呼ばれる。看護助手になると「助士さん」、清掃員は「掃除の人」と名前は捨てられてしまう。参考までに私達患者は「**さん」または「患者様」だった。「患者様」と言われると病院がサービス業のように思えて、医者や病院の技術に不安を覚えてしまう。
5時起床、8時朝食、9時半点滴、11時半血圧と体温測定、12時昼食、14時半回診、18時夕食。22時就寝。これが私の1日だ。入院してから毎日妻は訪ねてきて1時間ほど話して帰る。3−4日に1回病院のシャワーを浴びる。残りの時間は落語を聞いて、本を読んで過ごしている。
7月10日(木)5時起床。
 今日は看護師長の点滴だった。始めて注射が痛くなかった。経験の違いなのか、心の中で看護師長にエールを送る。今日からプレドニン10mg。