無人さんへ

「鶏の羽に使う蛋白は無駄」と、羽のないブロイラーを作り出した企業がありました。しかし人間の思うようには行かないものです。ブロイラーは寒さのため(カナダの企業です)身体の維持エネルギーが掛かりすぎ、夢のようなアホなブロイラー開発も失敗に終わりました。日本でも昭和3−40年頃、孵化場から出る大量の廃雄雛(卵を産まない雄は捨てられる運命にあります)の再利用が考えられ、鶏の餌の蛋白として利用できないか各地の孵卵場で実験されたようです。狂牛病の先駆け、共食いの実験です。
 廃雄雛と共に合成アミノ酸などを使うと産卵率には影響は出なかったですが、孵化率、その後の雛の成長に著しい差が出たためにこの実験は失敗に終わりました。
 このような失敗で養鶏業界は反省をしたか?いいえ、していません。大企業が作る『完全配合飼料』と言う、いかにも間違いがなさそうな餌に食肉残渣(配合は鶏6割、豚4割と言われています)が混ぜられています。一時騒がれた肉骨粉です、共食いです。『アニマル・マシーン』(ルース・ハリソン著、講談社)や『アニマル・ファクトリー』(ジム・メイソン、ピーター・シンガー著、現代書館)どちらの本も2−30年前に発行された書物ですが、この本が発行された頃より家畜の環境は確実に悪くなっています。
 農家は自嘲気味に「この肉や、卵は子供や孫に食べさせたくないよな」と言います。
 「規模拡大、近代的経営」等という幻想に踊らされ、農家は『経営者』の衣をまとい、家畜と離れ数字と共に過ごす時間が多くなり、家畜は利益を生み出す『機械』と変貌してきました。数字を愛でる経営者は家畜に愛情が湧くことはありません。
 日本のように狭い国では、養鶏の規模拡大はそれほど合理的な飼育方法ではありません。鶏糞処理施設や鶏の内蔵などの食肉残渣処理に一部公的資金を使い、地域に公害をまき散らし、機械化は殆どコストダウンに繋がらず、垂直統合による商社や飼料会社からの借金や法外な餌の値引きにより、競争相手の養鶏場が潰れるのをじっと待っています。
「卵は物価の優等生」と言われている内情はこんなものです。このコストはいつか消費者に返されると思います。
 鶏にとっても、飼育者にとっても、消費者にとっても幸せになれないこのようなことは早く終わって欲しいと切に望みます。