昼飯あと

 このムラに住み始めて18年、この頃ではこのムラに生まれ育った人たち以上に「おらがムラ」と図々しく生活しています。ムラに引っ越してきた当初は、右も左も分からず戸惑うことが多かったです。
 ムラの人たちとの生活の中で戸惑うことの一つは「時間」についてでした。
 「村祭りの旗立てすっから、昼飯あと神社に行くべ」と田んぼ道で言われて、「昼飯あとは、午後1時」と勝手に思い、遅れないように12時50分頃に出かけました。旗立てはもう終わっていました。「昼飯あと」は昼飯がすんだ直ぐを表し、12時半頃のことでした。
 戦前生まれの百姓は時計で時刻を表す「きっちり何時」と言い方は避け、「何々の前」「何々のあと」等と漠然とした言い方をすることが多いです。「午後一番」は午後1時頃を表します。
 長い間共に住んできたムラの人たちはその言い方で時刻を間違えないですが、外から来た私は慣れるのに少々時間がかかりました。ムラの集まりなどでの「午後7時集合」は、7時に家を出る人が多く、だいたい皆がそろうのは7時半頃になり、それから集会が始まります。集まりを待つ間の30分ほどは、ムラの情報交換の時間です。このような時間も大切です。
 この頃は各家庭の代替わりが進み、ムラの集まりに参加する人たちも勤め人が多くなり、そんなゆったりしたムラ時間も少なくなり、ムラも時計と共に物事が進むようになってきました。