農業を始めること

 資金的な余裕も農作業をする体力も技術も有り、農機具は納屋に寝ている、ビニールははがれて無くなったがハウスの骨組みは残っている、勿論農地は有り余っている、軽トラックも、探せば納屋の奥に親父が購入したままの肥料も有る、「有る、有る、有る。農業を始めるために必要な物はすべてそろっている、しかし経済的に割の合わない農業を継ぐ気は無い」と農業を辞めた農家の跡継ぎが多い昨今、街から農業・農村に憧れ、夢と希望を抱き新規就農を始める人達がいます。
 電車で、車で農村にたどり着き「よーし、明日から農業で生活していく」と会社に就職するように話は簡単に進みません、農業は自営業です。最低限の農業技術と、農村への仁義と、笑顔と、お金は必要です。(仁義についてはあまり難しく考えなくて良いと思います、ムラに住む人達への当たり前の思いやりです)
 農業技術については最低限1年、できたら2−3年の研修を行うことをお勧めします。研修期間は回り道のように思われますが、自分の一生を考えたら2−3年は農業技術を習得するために必要な先行投資時間だと思います。今まで多くの新規就農者を見てきましたが、農業研修に時間をかけた人の方が、就農後の農業技術の習得や農業経営が軌道に乗るのが早いです。
 そしてお金です。新規に農業を始めるには色々とお金がかかります。最低限の農機具代、苗の育苗や農作業用の機材のための農業施設代、農地の借地代、農家の必需品の軽トラック代、育てる作物の種代に肥料代、住まい、農作物が現金に変わるまでの生活費、、、、。初期投資に数百万円という多大なお金を必要とします。
 お金が無いなら、無いなりの農業方法も有りますが、農業を趣味ではなく生業とするなら「最低限の農業投資」は必要です。
 その最低限のお金も無い人のために『公』が農業資金を貸してくれます。でも、当たり前ですが、借りたお金は返さなければなりません。
 農業経験が少なく、農業技術も未熟な新規就農者にも自然は平等に(不平等に)猛威をふるいます。1年間の農業収入が皆無となり、農業出費が収入を上回ることも有ります。経済的にストックの少ない新規就農者にとっては「決定的なダメージ」となることが有りますので、簡単に『公』の農業資金に手を出すものでは有りません。
「『公』(みんなの)お金、お金が無いから借りるのが当たり前」と簡単に『公』の農業資金に手を出す新規就農者が増えているような気がします。コツコツ稼いで、その資金で農業を始める・・・今の人達には流行らない生き方のようです。
 私は、気が小さいと言いますか根が適当ですので、『公』の農業資金を使うことにより日本の自然環境、減り続ける日本の食糧自給率、高齢化が進む農村の地域振興などの難問を背負うことはまっぴらごめんです。逆に言いますと『公』の農業資金はそれら日本の農業・農村が抱える問題の解決を助けるために用意されている資金です。個人の「職業の選択の自由」と言う我が儘のために『公』の農業資金が有るのでは有りません。間違えないように。間違えると、落とし穴にはまることがあります。
 私は「農業の生業は私の問題」ととらえ、今まで『公』の農業資金は借りないで、自己資金のみで今日まで農業をやってきました。
 この頃の新規就農者は『公』の農業資金を簡単に借り、農村に住み農業するだけで貰える補助金(新規就農者を駄目にする「農薬」と私は呼んでいます。農村の生活費を補助金を頼りにして始めた農業は歪です。そしてその歪はなかなか修正しにくい物です。金は魔物です)まで簡単に申請してしまいます。「農業に就くだけでお金が貰える」その裏にある農業・農村の現実に気がつかないようです。「借りられるのは借り、貰えるのは貰う」単純で、世知辛さを感じるこの頃の新規就農者です。
「農業を始めること」とはどのようなことなのか、熟考するときかも知れません。